Summer School 体験記
綾部未歩
今回私が参加したSummer Schoolプログラム「trace route – Practice in Telematic Performance」では、チューリッヒ・シンガポール・台北の3つの拠点をリモートでつなぎ、テレマティックな空間で即興パフォーマンスを行いました。
私が参加した台北会場には、横並びに2つの大きなスクリーンが設置され、それぞれがチューリッヒとシンガポールに接続されていました。プログラム初日には3拠点の参加者全員で一つの輪になってウェーブを作ったり、ダンスパーティのように自由に踊ったりして、テレマティック空間に慣れるためのアクティビティを行いました。まるで全員が同じ空間に集まっているような一体感や錯覚を覚えたことが印象的でした。
テレマティックパフォーマンスの実践に入る前に、まず各大学の先生方によるさまざまなワークショップを受けました。特に台北チームは、ダンサーであるChengchieh Yu先生のレクチャーを毎日受けました。たとえば、動きや演技、ストーリーを交えながら自分の名前を紹介するリレーや、ペアを組んで体のさまざまな部位を使って触れ合い、身体を通じた挨拶やコミュニケーションを試みる活動です。また、お互いの動きをミラーリングして新しい表現に挑戦する取り組みも行いました。
こうした体験を通じて、参加者同士がよりリラックスし、自然に関わり合えるようになったと感じています。そして、ワークショップで得た経験は実際のテレマティックパフォーマンスに活かされ、表現力の向上にも大いに役立ちました。
テレマティックパフォーマンスでは、3つの拠点の学生同士でチームを作り、生徒たち自らで出し合ったいくつかのテーマに取り組みながら練習と振り返りを繰り返し、より良い表現を模索しました。
序盤に私のグループが取り組んだテーマは「イリュージョン」でした。しかし、このときは台北・チューリッヒ・シンガポールのそれぞれが独自で工夫をしてしまい、各拠点の間の関係性を上手く築かずに、各自がバラバラに表現してしまいました。そのため、テレマティック空間である意義を十分に活用できなかったことが大きな課題となりました。
次に取り組んだテーマは「グリッチとフリーズ」でした。ここでは台北とチューリッヒにいるダンサーの生徒が中心となり、お互いの動きをミラーリングしたり、画面越しに手を重ね合わせたりと、あたかも同じ空間にいるかのように振る舞いました。そして、途中でその動きを止めたり、あるいはカメラやマイクに不具合のようなエフェクトをかけたりして「つながりの途切れ(=グリッチとフリーズ)」を表現し、テレマティック空間の意義を見出せました。しかし一方で、シンガポールのメンバーは音楽演奏をしていたため、二つのスクリーン両方に対してアプローチしなければいけないという課題が新たに浮かび上がりました。
最後に挑戦したテーマは「感覚体験」でした。ここでは、これまでの課題を意識しながら、「離れているのに一緒にいる」という感覚を強めることを目指しました。本来テレマティック空間では共有できない嗅覚・味覚・触覚を「想像力」を通して共有しようと試みました。各拠点の参加者がそれぞれ食べ物を持ち寄り、「匂いがする」と言い合ったり、食べさせ合うように振る舞ったりしながら、美味しさや不味さを共有しました。さらに食後には、画面を通して相手に触れるように手を伸ばしたり、上着を着せてあげるように演じたりと、あたかも同じ空間にいるかのように遊ぶことで、テレマティック空間を最大限に活かそうとしました。
このプログラムには、多様な芸術分野を専攻する学生が参加しており、即興パフォーマンスの中では、楽器演奏や歌、ダンスや演技、語りや文章、さらには絵画といった多彩な表現が交差しました。分野が異なるからこそ、一つのパフォーマンスの中で関係性を築くことは容易ではありませんでしたが、だからこそ「相手から何を受け取り、自分はどう応答するのか」「自分の表現を通じて何を伝えたいのか」を深く考え、実践する力が培われたと感じています。
異なる背景を持つ仲間と出会い、リモートでつながるための最先端の設備を活用しながら共創できる機会は非常に貴重であり、この経験は今後の表現活動にとって大きな糧となるでしょう。



