Extractive Realities and Ecological Resonances[7/7〜18 /アテネ]

Extractive Realities and Ecological Resonances レポート

2025/07/19
東京藝術大学 美術学部 先端芸術表現科 学部4年
川村 愛

私は、2025年7月7日〜18日にギリシャ・アテネで開催された国際サマースクール「Extractive Realities and Ecological Resonances」に参加しました。このプログラムは、University of the Arts London(UAL)とZurich University of the Arts(ZHdK)をはじめとするShared Campusの国際連携によって開催され、University of the Arts London(UAL)やZurich University of the Arts(ZHdK)、香港バプティスト大学、イスタンブール工科大学、東京藝術大学など、ヨーロッパやアジアの芸術系大学から選抜された学生22名が集まりました。環境問題、資源の搾取(Extractivism)、土地の記憶といったテーマに対し、さまざまなワークショップや講義を受けつつ、芸術的視点から批判的かつ創造的にアプローチすることが求められる、非常に密度の濃い2週間でした。

私はこの短期留学を、2025年9月から始まるドイツ・バウハウス大学への交換留学への準備として位置づけ、土地を歩いた実感をもとに哲学的思索を深める機会としました。特に、前の大学の卒論のテーマであり、現在も私の創作活動に大きな影響を与えているニーチェの思想、その源流であるギリシャ神話について探究したいと考えました。また、海に関係する作品制作に取り組んでいるため、現代のギリシャを取り巻く環境問題に接続する視点を探求したいと考えました。

私はアテネ近郊の都市エレウシスに焦点を当て、現地の海岸リサーチと制作に取り組みました。エレウシスはかつて「エレウシスの秘儀」が行われた神聖な地でしたが、現在では工場が立ち並ぶ重工業地帯へと変貌し、浜辺には放置された船が溜まり、プラスチックごみが散乱していました。現地のチューターは、「ギリシャでは一時的なものほど永く残る」と語っていました。日本のような温暖湿潤気候とは異なり、ギリシャは乾燥しているため、遺跡などが残りやすいのだろうと私も感じていました。そして、だからこそ永遠を志向する哲学という学問が生まれたのだろうと思いました。そこから、わずか一瞬で使い捨てられるごみが、海では“永遠”に近い時間スケールで存在し続けるという事実に、深い示唆を得ました。

日本でも以前から浜辺でのごみ拾いを続けてきましたが、それを作品へどのように昇華させるかは、ずっと模索していました。今回、現地のエコロジー系ワークショップで「レジ袋を紐にする技法」を学び、そこから「ごみを編んで吊るす」という制作方法の核を得て、自分の中にあった問題意識と表現方法が一致しました。こうして、流木、漁網、ロープなどの廃材を用いたインスタレーション作品《永遠と一日(Eternity and a Day)》を完成させ、最終展示にて発表しました。

展示では、拾い集めたごみを丁寧に洗浄・再構成し、美しさと異物感が交錯する空間を構築しました。それは、かつて聖地だった土地で起こる「喪失と再生」を象徴すると同時に、人間の行動が自然や歴史にどのように刻み込まれるのかを可視化する試みでもありました。他の参加者や来場者との対話を通じて、言葉の壁を超えて作品がコミュニケーションの媒介となることを実感し、「作品を通じた言語」を初めて獲得したような感覚がありました。また、自分のコンセプトが誉められる経験は、日本ではあまりなかったため、海外で求められる基準に、自分の表現が合っているのかもしれないという希望が湧きました。

この経験を通して、自分が社会や他者、環境とどのように関わり、何を語るべきかという視点が大きく変化しました。これまでも「場所・環境とアートの関係性」「不可視化されたものとの対話」などをテーマに制作してきましたが、今回の滞在を通じて、それらの問いがより具体的かつ実践的なかたちを帯びてきました。

また、実践的な英語運用能力の向上も大きな成果のひとつでした。滞在当初は言語的な不安がありましたが、日々の生活やディスカッションを通じて、英語での発信に対する苦手意識が薄れ、文脈から意味を把握しながら臨機応変に対応する力が身につきました。

このプロジェクトは今後も継続し、日本でも展示・研究を発展させていきたいと考えています。「喪失と再生」や「人間と自然、不可視の記憶との関係性」という自分の表現の核に、今回の経験は深く響き合いました。

最後に、このような貴重な機会を提供してくださったJASSO、東京藝術大学、そして全ての関係者の皆さまに、心より感謝申し上げます。

エレウシスの秘儀が行われていた神殿跡

エレウシスの海岸とごみ

展示風景