Extractive Realities and Ecological Resonances[7/7〜18 /アテネ]

Extractive Realities and Ecological Resonancesに参加して

東京藝術大学美術学部工芸科彫金専攻4年
市丸蓉

7月にギリシャへ訪れ、世界各地の主要な13の国際芸術大学が協力して設立した、国際的な教育と研究のためのプラットフォーム「Shared Campus」のカリキュラムに参加し、滞在制作を行った。実際に行ったことを以下に記録した。

参加したプログラムの概要

Extractive Realities and Ecological Resonances

このサマースクールでは、アテネの都市部と郊外の景観を探求し、工業都市、農地、そして古代エレウシスの秘儀の跡地を巡る。過去と現在の土地利用をマッピングし、その成果を芸術的・活動的な表現へと昇華させることで人間と人間以外の生命に及ぼす隠れた影響を明らかにする。

特に印象的だったプロジェクトの詳細
・Blue Cycle

不法投棄された漁業の網(Ghost net)を減らす取り組みを行うメーカー網を3Dプリンターで使うフィラメントとして再活用し家具などを作るブランドの工場見学
・3QUARTER
さまざまな素材を再利用して鞄を制作しているブランドの工場見学
バルコニーオーニング(バルコニーや店舗の正面を保護する防水生地で頑丈で耐候性がある)

イベントバナー(かつて展覧会、フェスティバル、映画の告知に使われていたバナー。厚みがあり、色褪せにくい)

救命いかだ(ピレウス港発着のフェリーボートの救命いかだ。過酷な海洋環境に耐えられるよう設計されている)
などを用いている。

 

学び

街、食べ物、動物から農業、工業まで、毎日さまざまな角度からギリシャの生活に触れた。この2週間は、私たちが生きていく上でこれら全てが必要不可欠であることや、地続きでつながっていることを深く考える機会となった。それぞれの要素がどのように相互作用し、私たちの生活や環境に影響を与えているのかを、実際に足を運び、対話し、手を動かすことで実感できた。そして、これらの学びを深めていく中で、私は現代社会における工芸の可能性を強く見出した。例えば、Blue Cycleや3quarterの取り組みに見られるように、工芸は単なる美的な表現に留まらず、廃棄物を新たな価値あるものへと生まれ変わらせる、持続可能な社会を築くための重要な手段となり得る。自分で素材を選び作り出すことは、普段の学内の彫金での制作と大きく変わりはない。しかし、自分の中で制作として利用できる素材を限定していたことに気がついた。手作業というのは自由で、全てのものが材料になることを実感した。伝統的な技術と現代の課題を結びつけ、素材に新たな命を吹き込む工芸の力は、環境問題や社会問題に対する具体的な解決策を提示し、私たちに未来への希望を与えてくれると確信した。このギリシャでの経験は、私自身の視野を広げ、今後の制作活動において、より深く環境や社会とのつながりを意識するきっかけとなった。

実際に制作したもの
今回のプログラムでは、滞在中に制作・展示も行った。
誰かに不要とされたものに、新たな命を吹き込んだ 。大量生産・大量消費が続く現代において、 手仕事である工芸が果たせる役割とは何か。 工芸の培われた技術と、自由な発想があれば、身の回りにあるあらゆるものが、唯一無二の素材へと生まれ変わることを探求した。レジ袋や、海で不法投棄される漁業の網、フリーマーケットで購入した古いカーテンや糸を使った。 身近なゴミから、一見少し遠いと感じる存在のゴミを用いて作品を制作。

今回の作品は手作業だからこそできることを改めて感じるきっかけになった。型は決まっていないこと、異素材を組み合わせることができる こと、大きい機材は必要がないこと、この3つの観点から工芸というのは主体的に自由にアップサイクルに参加できると感じた。

まとめ

異国で制作するという経験は自分を見つめ直す経験になった。自分ができることやできないことが明確になった。
今まで1週間ほどの期間で、異国での交換留学や一人旅などを経験したことがあり、拙い語学力ながら海外で過ごすことを楽しんでいた。しかし今回のプログラムは意思を伝えることはできたとしても、会話を続けることができなかった。それは言語能力が足りないからというのは勿論、そもそも初対面の人と2週間ほど一緒に過ごしていく上でどのように関係性を作ったらいいのかというのがわからなかった。
身一つで飛び込むことで今までなんとなくでやっていたことが全て通用しなかった。しかしそれらの問題は自分が持っている技術が解決してくれた。作品を見せること、友人の写真を撮ること、イラストで伝えることを通して、コミュニケーションをとる事ができた。言語能力・期間・材料、全てが限られている状況の中、自分を助けてくれたものは工芸の精巧な技術力だった。
現在、私はコンテンポラリージュエリーを制作している。石や貝などの過去の収集物から記憶や気持ちをアクセサリーという形に留め、それらを身につけることで大切な記憶や意思を保存し共有することを目的としている。今回のプログラムはまさに作品を通じてコミュニケーションを図った時間が多かった。改めてアートによる交流はより内面を表現できること、そして表現方法は自由であることを学んだ。これらを糧に日本の工芸技術を使い、世界各国の方とのコミュニケーションツールになり得るジュエリーの制作を行いたい。