GAPインドネシアユニット [8月10日〜24日]

インドネシアユニット レポート

 

田中秀汰郎

インドネシアのマカッサルとジャカルタに滞在し、現地のアートコレクティブやモナシュ大学での交流を通して、印象に残ったことが二つある。一つ目は、社会の中でアートコレクティブがどのような立場をとり、役割を果たそうとしているのかを学ぶことができたことである。地域の中で、そのままでは忘れられてしまう記憶や伝統を現代風にアレンジしながら映像作品としてアーカイブしたり、世界から訪れるアーティストとの交流の拠点をつくり、それにより自身のコレクティブを維持していたりなど、運営の部分まで教えてもらえたことはとても興味深かった。また、反権威主義の主張として施設内にワンピースの旗を掲げているのも、タイのとっとこハム太郎の歌のように、日本の文化が異なる意味を持ち社会の中で浸透している現実を体感でき、大きな学びとなった。

二つ目は、モナシュ大学との交流の中で感じた違和感である。モナシュ大学が入るGreen Office Park 9という高層ビルで、学生がインドネシアの地方都市のインフラ整備や都市開発に関して企画提案をしている場面に立ち会い、その後大学生と意見交換する時間を持てた。彼らは、地方の駅周辺に新しい住居を建てて、利便性を高め、街をある種“クリーン”にする提案をしていた。確かに、都市の中心部の富裕層や観光客がターゲットの施設とそれ以外の施設の劣化具合や衛生面の差が大きいと感じた一方で、彼らはその地域の伝統や歴史についてほとんど論じていなかった。アートコレクティブの存在も認知していなかった。高層ビルの窓から景色を眺めると、異なる国にいるのではないかという錯覚を抱いた。

帰国して間もなく、滞在していた地域では暴動が起きた。議員に対する高額な住宅手当に反対するデモが、配達中のバイク運転手が警察車両に轢かれて死亡したことをきっかけに暴徒化した。インドネシアの多くの主要都市で政情不安に見舞われている。交流した人々の安否がとても心配だ。そして、このような状況だからこそ、美術が分断の架け橋になってほしいと心から思う。